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2006年 夏祭りの夜

 母がお世話になっている老人ホームから電話がかかってきた。

『土曜日の夕方夏祭りがあるのですが、来て上げていただけませんか?』

 夏祭りがあるというのは義妹から聞いていたので、即参加の旨を伝え、ゆいかを連れて行くことにした。

 6時過ぎに行くと、ホームの前庭の真ん中にはやぐらが組まれ提灯が下げられ、入所者とその家族がテーブルにつき食事が始まっていた。
 ちょうどバルーンアートが終わった所で、次の出し物のエイサー踊りの人たちが玄関ポーチで出番を待っていた。寮母さん達は浴衣やアロハを着てお盆に料理を載せめまぐるしく動き回っていた。

 母の姿が見えないので、
『こんばんわ。今日はありがとうございます。あのぅ、母は・・・』
と寮母主任に声をかけてみると、
『お母さんは寮母室にいると思うんですが・・・』
 するとまもなく、リクライニングの車椅子に乗せられて母が玄関から出てきた。
『今日はお母さんは機嫌がいいですよ』
 見ると、目もパッチリ開いている。
『お母さん、カヅ子さん! 今日は祭りよ。太鼓、聞こえる?』
 うつろなまなざしは、祭りの提灯の上あたりに出ている白い月のほうを見ている。
『カヅ子さん、月を見てない? 車椅子をもうちょっと起こしてあげようか?』
 そう言って寮母さんが背もたれを少し起こしてくれた。でも母の視線はやはり月を見ていた。

 エイサー踊りに続いて、町内の踊り保存会による『うつみ音頭』、浴衣をドレスに変えて『フォークダンス』と続いた。玄関ポーチで母の車椅子の隣に腰を下ろして踊りを見ていると、通りがかりに寮母さん達が声をかけてくれる。
『カヅ子さん、今日は娘さんが来てくれてよかったね』
『カヅ子さん、踊り、見りょうる?』
 母の耳元に口を寄せて、ほっぺたをさすりながら声をかけてくれる。
 
 フォークダンスを終えた人たちが玄関へやってきた。中の一人が母に声をかけてくれた。ヘルパーを長い間していたしーちゃんだ。母は直接介護をしてもらってはいないが、しーちゃんには母だけでなく姑もかわいがってもらった。母親を早くに亡くしているから、おばさんたちのことは母親のように思っている、としーちゃんはいつも言っていた。

 しーちゃんは母の耳元で、
『おばさん、しーちゃんでぇ、わかるぅ?』
と何度も言った。最近は私が声をかけても表情は全然変わらなくなっているのに、しーちゃんの声に母の目が生きたような気がした。
『おばさん、わかる? おばさん、えらい目に遭うたなあ』
 母の足を案じてしーちゃんがそう言うと、母の左目から涙が一筋つーっと流れた。
 私は驚いてしーちゃんと顔を見合わせた。

 一時、言葉が出なかった。母の涙を指でぬぐって、しーちゃんに、
『ありがとう』
と私は言った。それしか言えなかった。

 やぐらの周りには『炭鉱節』の輪が出来ていた。私は、施設長に手を取られ踊るゆいかを目で追った。ぼんやりと赤い提灯が風に揺れている。
 
 母のまなざしの向こうで、月はもう黄色くなっていた。

img014s.jpg

 時にはアロハでおしゃれ!


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Author:ゆいかばあば
《どうにかなる!》で いろんな坂道を歩いてきました
おもしろおかしく 笑って暮らしたいと思っています



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