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父の船を待つ母

 仕事では毎日母と顔をあわせているが、じっくり顔を見て話してないので久しぶりに面会に行ってきた。
 
 デイルームではお年寄りが車座になって座っていた。カラオケが鳴っていたが、誰一人歌うでもなく、耳を傾けている様子もない。
 
 列の端に母はいた。車椅子に横になり、天井を見ている。
「お母さん、歌を聞きょうるん?」と声をかけると、
「あんた、誰な?」がっくりくる。
「私が誰か、覚えてないん?」
「知らんでぇ」
 怪訝そうな顔で私を見ている。通りかかった寮母さん達が口々に、
「カヅ子さん、今日は誰が来てくれたん?」と聞いても、
「知らんでぇ」と繰り返す。
「菓子があるんじゃが、あにきに持って帰らせえ」あにきとは次兄のことだ。
「あにきにやるん? 私にはくれんのん?」
「お前にはやらん」
「じゃあ、わたしは誰?」
「誰なあ?」
「あんたの娘はどういう名前じゃった?」
「たえこ・・・」
「そうよ、これは誰?」と聞くと、私の顔をまじまじと見てやっと
「たえこ・・・」と言ってくれた。
「やれやれ、思い出してくれたなあ」と言うと、急に目が生き生きしてきて、
「帰ろうや、帰ろうや」と言い出した。どこに帰るん?と聞くと、母の実家の名前を言った。
 
「浜へ行こうやぁ、船が帰る」と母が突然言い出した。漁から帰ってくる父の船を迎えに出るのが母の日課だった。その頃のことを思い出しているのだろう。

「浜へ行きたいのう」と母が言う。                   2005・5・16
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Author:ゆいかばあば
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おもしろおかしく 笑って暮らしたいと思っています



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