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幼い日の思い出

 長屋の路地の洗い場で、母が弟のおしめを洗っている。おしめはこうやってたらいの中で振り洗いをするのだと、母はわたしに教えている。 中腰で洗濯をする母のそばにうずくまって、わたしの思い出は始まった。

 記憶の初めのころ、わたしは山口県宇部市にいた。

 小さな家の、その又一間の間借り生活だった。もちろん風呂などあるはずはなく、大通りを渡って少し先の銭湯へ行った。
 大きな湯船の蛇口のそばで遊ぶのが好きだった。  母に石鹸入れを洗ってもらって、それで蛇口から水を汲んでは弟と変わりばんこに飲んで遊んだ。
 シャンプーはいつも母がしてくれた。ある日、母の膝に仰向けに寝転び、いつものようにシャンプーをしてもらっていると、かがんでいる母の乳首がわたしの口に触れた。そばにいた人が、
 あら、この子、お母さんの乳をのみょうるわ、と言い、母も、アハハ、と笑った。
 それは偶然の出来事だったが、私にとっては忘れられない思い出で、今でもはっきり母親の乳首の感触を覚えていることをとても幸せに思う。

 弟が6歳まで母乳を飲んでいるのを見ていたし、断乳の為に母が乳首に唐辛子を塗り、欲しがる弟が泣きじゃくるのをそばで見ていて、母乳に対する憧れが心の底にあったのだと思う。

 銭湯の向かいには『久保』という文房具屋があった。そこでプラスチックのはさみを買ってもらった。生まれてはじめて買ってもらった文房具だった。弟と切り紙をして遊んでいると、隣からヴァイオリンの音色が聞こえてきた。毎日同じ時間に聞こえてきた。隣は船具屋でわたしと同じ年頃の男の子が二人いた。私の楽器に対する興味はこのころから芽生えていったと思う。

 小学校1年生の時、ヤマハ音楽教室に通わせてもらってから少しピアノが弾けるようになると、父にピアノを買ってとせがんだ。父は、よっしゃ、ピアノを買いに行こう、と言って私を新川の商店街へ連れて行った。

 楽器店は何軒かあった。一軒一軒入っては、父はわたしにピアノを弾かせた。
 そして、このピアノは音が悪い、ほかの店へ行こう、と私の手を引いた。わたしは期待でどきどきしながら父のあとについていった。
 最後の店でもピアノを弾かせた後、音が悪いのう、と言い、父が陳列ケースから取り出したのは鍵盤ハーモニカだった。わたしは泣きたいのをぐっとこらえて、それならいらん、と言った。

 家の前の路地で、七輪に火を熾し、母はその日2度目の酒の燗をしている。最初の酒は熱すぎたらしく、父はひどく癇癪を起こし少し口をつけただけで投げ捨ててしまっていた。

 鼻をすすり、泣きながら酒を沸かす母を、わたしはじっと見ていた。

 クリスマスには、父は新天地へ飲みに出かけた。そして真夜中、父の調子のはずれた歌声に起こされて、母とわたしは表へ出る。

 さっくらっと ゆっうっじっが やっこらさのさあ

 父は酔っ払うと決まってこの歌を歌った。とんがり帽子に鼻めがねの父は、千鳥足でしかも放尿しながら帰ってきた。家に入りながらもう一つ、

 あっなたっに もっらぁった おっびどっめのー

と気持ちよさそうに歌っている。

 翌朝、大通りを一つ隔てた食料品店から、、昨夜父が酔っ払って割ったガラスケースの弁償をするようにと言ってきた。父には全く覚えがないらしいが、間違いはなさそうだ。
 母は、ほんまにほんまに・・・といいながらお金を持って謝りに行った。

 猪口でちびりちびりと、父はほんとうにうまそうに酒を飲んだ。
 一言も愚痴をこぼさぬ母を横目に、父はとぼけて又歌う。

 こんな おかめの どっこがようて ほぉれぇた

伊勢参り

  母は9人兄弟の8番目、嫁いだのは舅姑、大舅大姑、小姑たちのいる半農半漁の大家族だった。不器用な母は度々実家へ泣いて帰っていたという。
 下の弟が生まれてすぐに山口県宇部市へ行ったのは、母をつらい立場から救うためだったと危篤状態の母を見守りながら兄から聞いた。

 あのころの思い出の中の母は、隣近所の人たちと一緒に買い物に行き、集まってはギョーザを作り、ソラマメの羊羹を作り、時々は洋服を仕立ててもらい、父と映画を見に行き、秋吉台(次の写真)に行き・・・いつも笑っている母がいる。母の人生の中で一番幸せだったのは、宇部にいた10年ほどの間だったのだろうと思う。

 映画と言えば、母は弟をおんぶし、わたしは父に背負われ映画館に入った記憶がある。父の高い背中のぬくもりを今も覚えている。

 小学校に入学してからは、わたしは父や母の元を離れ祖父母に育てられ、宇部に行くのは夏休みと冬休みだけになった。5年生のとき両親は宇部を引き上げ帰ってきたのだが、それから後の思い出の中の母は、やはり泣いていた。

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